手先が器用な人を見ると、簡単そうに見えるのが不思議だ。
今回は知多市の岡田地区で機織りを体験し、その思い込みをきれいに直してもらった。
青い糸を選んだ時点では、涼しげなコースターがすぐ完成するつもりでいた。
岡田の古い街並みには、黒板塀やなまこ壁の家、蔵が残っている。
道はゆるやかに曲がり、先の景色が少しずつ見えてくるので、自然と歩みが遅くなる。
地図を片手に歩いたが、気になる路地が多く、現在地の印はほとんど飾りだった。
江戸期から昭和三十年代まで、岡田は知多木綿の中心地として栄えたという。
古い建物が残るだけでなく、今も布に触れられる場所があるのが面白い。
歴史を読むだけで終わらず、手を動かして続きを知れる町なのだと思った。
木綿蔵で織り機の前に座ると、足と手を交互に動かす手順を教えてもらった。
説明を聞いている間は理解したつもりなのに、始めると足だけ先へ進もうとする。
右手、左手、足の順番が混ざり、数秒で一人だけ複雑な運動会になった。
隣の友人は慎重に進め、最初から布目がきれいにそろっていた。
こちらは張り切って糸を詰めすぎ、途中だけ妙に頑丈そうな段ができた。
コースターに防御力はいらないと笑われたが、その段も含めて自分の模様に見えてくる。
慣れると、織り機の音が心地よく聞こえ始めた。
一段ずつしか進まないのに、少し前と比べると確実に面積が増えている。
急いでも手順は減らないので、目の前の一回に集中するのが一番早かった。
完成した布は、市販品のように均一ではない。
幅が少し揺れ、力を入れた場所も分かるが、そこがかえって気に入った。
友人の整った一枚と並べると、性格診断より正確に二人の違いが出ていた。
体験後は知多岡田簡易郵便局の建物を見に行った。
水色の壁と赤いポストが目を引き、明治三十五年に建てられた建物が今も使われている。
写真を撮ると色の組み合わせがきれいで、何度も立ち位置を変えた。
旧中七木綿本店の建物にも立ち寄り、知多木綿の品を眺めた。
知多地域で長く紡がれてきた布が、袋や小物など日常で使う形になっている。
自作の一枚を見た直後なので、縫い目や柄を見る目だけは急に厳しくなった。
昼は知多の押し寿司を食べた。
魚介や卵、しいたけなどを重ね、穴子の煮汁を煮詰めた甘辛いたれを使う郷土料理だ。
断面がきれいで、崩すのが惜しいと思いながらも、箸は迷わず進んだ。
昔は祭りなど人が集まる日に振る舞われていたと知ると、箱に収まる華やかさにも納得する。
一切れごとに具の組み合わせが変わり、次を選ぶ時間まで楽しい。
友人は最後の一切れを譲る顔をしたが、視線だけは一度も寿司から離れなかった。
食後は炭火で焼くしょうゆ味の団子を見つけた。
香ばしい匂いに引かれ、満腹という情報をいったん無効にして一本ずつ買った。
焼きたてを持つと会話が止まり、さっきの一切れのことも平和に忘れられた。
土産には海老せんべいと、知多木綿を使った小物を選んだ。
食べればなくなるものと、手元に残るものを一つずつ買うと、妙にバランスがいい。
自作のコースターは壊さないように袋の一番上へ置いた。
佐布里のほうへ回り、佐布里池の近くも歩いてみた。
岡田で建物や布を近くから眺めた後なので、水辺の広がりがいっそう大きく感じられる。
同じ市内で、手仕事の時間と自然の中の時間を両方味わえるのがうれしい。
梅の館では、地域の土産品を見ながら休憩した。
佐布里梅を使った菓子もあり、コースターに続いて持ち帰りたい物が増えていく。
袋の一番上を守るため、壊れにくい物から順に入れるという小さな収納競技が始まった。
友人は荷物を完璧に収めたが、会計後に自分の飲み物を入れる場所がないと気づいた。
こちらの袋へ移した瞬間、収納競技の優勝者は取り消しになった。
機織りでは負けたので、せめて袋詰めだけは勝ったことにしておく。
池の周りでは立ち止まる場所ごとに水面の見え方が違った。
広く見える場所を探して二人で行ったり来たりし、結局最初の場所へ戻ってきた。
遠回りだったが、歩いた分だけ荷物の持ち手を替える技術は上達した。
帰り道に新舞子の海辺まで足を延ばした。
岡田の蔵と織り機から、砂浜と風の景色へ変わり、同じ市内でも空気が違って感じられる。
海を見ながら、今日は手も足もよく動かしたと話した。
家でコースターを置く場所を探すと、棚の上に鍵や手袋が積み重なっていた。
その多くが、最近出番の少ないバイクのために用意した物だった。
織り機では一段ずつ進めたのだから、家の整理も同じように始めればいい。
今後も乗るなら予定を決め、難しいなら手放す方法を具体的に調べる。
相場や手続きが分からないまま考えるより、査定の入口を知っておくほうが判断しやすい。
そこで、バイク買取の案内を一度確認することにした。
急いで決めず、車体の状態や記録をそろえてから考えればいい。
不揃いでも一段ずつ形になった布のように、片づけも小さく進めれば終わりへ近づく。
まずは完成した青いコースターを、物の下敷きにせず使える棚に戻したい。